旅行の楽しみを一瞬で台無しにしてしまう手荷物紛失。
到着ロビーでベルトコンベアを見つめながら、いつまで経っても自分の荷物が出てこない時は不安と絶望に襲われるかもしれません。
しかしながら、多くの人が想像するよりも、預け荷物トラブルの状況は確実に改善しています。
航空業界の情報技術を統括するSITA(国際航空情報通信機構)が発表した2025年バゲージITインサイトレポートは、この手荷物紛失や空港荷物遅延の悩みについて興味深い事実を明らかにしています。
思っているより深刻ではない預け荷物トラブルの真実
「ロストバゲージ」という言葉から、多くの人は荷物が永久に失われることを想像するかもしれません。しかし、SITAの分類では、預け荷物のトラブルは「バゲージミスハンドリング」として、より正確に区分されています。
最も一般的なのは「空港荷物遅延」で、これは荷物が乗客と同じ便で到着しなかった状態を指します。2024年のデータでは、全手荷物処理トラブルの74%がこの遅延に該当します。つまり、預け荷物トラブルの4分の3は一時的な問題で、最終的には手元に戻ってくるということです。
さらに心強いのは、回復速度の早さです。SITAのデータによると、ミスハンドリングされた預け荷物の66%が48時間以内に乗客の手元に戻っています。空港で荷物が出てこない不安な瞬間を経験しても、その多くは数日以内に解決されるということです。
一方で、荷物の物理的損傷や内容物の盗難といった「破損・盗難」は18%、そして最も深刻な「手荷物紛失」、つまり荷物の所在が完全に不明になるケースは、わずか8%に過ぎません。この数字は、多くの人が抱いている預け荷物トラブルへの恐怖が、実際のリスクより大きく膨らんでいることを示しています。
遅延:74% – 一時的な問題で最終的に荷物は戻る
破損・盗難:18% – 物理的損傷や内容物の問題
紛失:8% – 完全に所在不明になるケースは最も少ない

「ロストバゲージ」の66%が48時間以内に乗客の手元に戻ります。また、多くは永久的な紛失ではなく、数日内に解決します。
2024年の記録的旅客数の中で驚くべき手荷物処理改善
2024年は航空業界にとって記録的な年でした。全世界で53億人が空を旅し、これは前年比8.2%の増加を意味します。通常であれば、旅客数の急増は空港や航空会社の手荷物処理能力を圧迫し、預け荷物トラブルの増加につながりそうなものです。
ところが現実は正反対でした。1000人当たりのミスハンドリング率は6.3個となり、前年の6.9個から8.7%も減少したのです。これは総数にすると約3340万個のミスハンドリングが発生したことになりますが、旅客数の増加率を考慮すると、むしろ相対的な改善を示しています。
この改善の背景には、航空業界の地道な技術投資があります。リアルタイム荷物追跡システムの普及、自動化された手荷物処理システムの導入、そしてAI技術を活用した予測・予防システムの発達が、旅客数の増加を上回るペースで手荷物処理の精度を向上させています。
旅客数:53億人(前年比8.2%増)
ミスハンドリング率:1000人当たり6.3個(前年6.9個から8.7%減少)
総ミスハンドリング数:約3340万個
乗り継ぎが41%の要因:AirTagでは解決できない預け荷物トラブルの真実
SITAの詳細な分析により、手荷物紛失の根本原因が明確になりました。
最大の要因は乗り継ぎ時のミスハンドリングで、全体の41%を占めています。これは、複数の航空会社や空港システムが関与する複雑な環境で、預け荷物を正確に転送することの困難さを物語っています。特に乗り継ぎ時間が短い場合や異なるキャリア間では発生しやすいことが明らかになっています。
この事実は、AirTagなどのトラッキングデバイスの限界も浮き彫りにします。確かにAirTagは預け荷物の現在位置を知るのに役立ちますが、乗り継ぎ空港で荷物が置き去りにされていることが分かったとしても、個人にできることは限られています。
しかしながら、47%の乗客はリアルタイムで手荷物を追跡したいと考えています。これを受けて現在、43%の航空会社がリアルタイム荷物追跡サービスを提供しており、2027年までに92%まで拡大する予定となっています。

国内線と国際線では、預け荷物トラブルのリスクに大きな差があります。国内線では1000人当たりわずか1.9個なのに対し、国際線では11.2個と、実に6倍近い開きがあります。
国際線においては、複数国の航空会社や空港システムが関与し、税関・入国審査での追加処理、言語や規制の違いが手荷物処理を複雑化させていることが原因です。
次に多いのは積み込み失敗で17%を占めます。これは特にピーク時間帯に発生しやすく、手荷物処理能力の限界や人的ミスによる積み残しが主な原因です。その後にシステム・セキュリティエラーが16%、空港・天候・重量制限に関連する問題が10%と続きます。
興味深いのは、これらの主要因のほとんどが航空会社や空港側のオペレーション上の問題であり、乗客個人の準備や注意では予防できないということです。荷物に名札を付ける、壊れやすいものは機内持ち込みにするといった基本的な対策は重要ですが、手荷物紛失の根本的な解決には業界全体のシステム改善が不可欠だということが、データから明らかです。
乗り継ぎ時のミスハンドリング:41%(最大の要因)
積み込み失敗:17%(ピーク時間帯の処理能力限界)
システム・セキュリティエラー:16%(86%のチケッティングエラー)
空港・天候・重量制限:10%(外的要因)
積載エラー:8%
到着誤扱い:4%
タグエラー:4%

ロストバゲージの主要因の大部分は航空会社・空港側のオペレーション問題であり、個人対策には限界があることを理解することが重要です。
タグの間違いがないかを確認することに意味がないとは言いませんが、発生原因の大半にはほぼ影響しません。
技術革新により17年間でミスハンドリングが67%改善
手荷物紛失問題について最も勇気づけられるのは、長期的なトレンドが示す劇的な改善です。2007年と2024年を比較すると、その変化は驚くべきものがあります。

2007年、世界の航空旅客数は24.8億人でした。そして2024年には53億人と、実に114%の増加を記録しています。これだけの旅客数の増加があれば、通常は預け荷物トラブルも比例して増加するはずです。しかし現実は大きく異なりました。
2007年のミスハンドリング総数は4690万個でしたが、2024年には3340万個へと29%減少しています。さらに注目すべきは、1000人当たりのミスハンドリング率です。2007年の18.9個から2024年の6.3個へと、実に67%もの改善を達成しています。
17年間の劇的な変化(2007年→2024年)
– 旅客数:24.8億人→53億人(114%増加)
– ミスハンドリング総数:4690万個→3340万個(29%減少)
– ミスハンドリング率:18.9個→6.3個/1000人(67%改善)
まとめ:個人対策の限界を受け入れつつ、航空業界の更なる改善に期待
SITAのデータが明らかにしているのは、手荷物紛失問題の本質が個人の対策不足ではなく、複雑な航空システムの運用上の課題にあるということです。AirTagのような追跡デバイスは、預け荷物の現在位置を知ることで不安を軽減する効果はあるものの、根本的な解決策としては限界があります。
預け荷物トラブルの発生原因は、乗り継ぎ空港でのミスハンドリングが41%と最も多く、ピーク時間帯の手荷物処理能力限界での積み込み失敗やシステムエラーといった個人の対策ではどうにも解決できないものがほとんどです。
また、仮に手荷物紛失が発生しても完全に所在不明になるケースはわずか8%であり、紛失した預け荷物は66%が48時間以内、ほとんどのケースでは数日内に個人の手元に戻ってきます。
過度に不安になる必要もなければ、過度に対策を検討する必要もありません。むしろ重要なのは、航空業界全体が着実に改善を続けているという事実を理解することです。
この現実を踏まえた上で、実際に手荷物紛失に遭遇した際の効果的な対処法と、できる範囲での予防策について詳しく別の記事で解説します。ロストバゲージ問題の本質を理解することで、より冷静で効果的な対応が可能になるはずです。
